私たち脳神経外科医にとって,頭痛は非常に関心の高い症状です。頭痛で悩んでいる患者さんは多く,なかには命の危険がある病気の場合もあります。その代表が「くも膜下出血」による頭痛です。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤破裂によるものです。初回の破裂によるくも膜下出血を迅速に診断して,動脈瘤に対して速やかに処置を行い,再破裂を防ぐことが重要です。
頭痛患者さんにおいて,医師がくも膜下出血を見落とすことは,医療過誤をめぐる紛争に直結する可能性が高いといえます。
我が国の救急医療は,救急専門医の数が十分ではないため,特に夜間や休日は救急医学や脳神経領域を専門としない多くの医師(例えば消化器専門医,整形外科専門医など)によって支えられているのが現状です。当然,頭痛診療に慣れていない医師がくも膜下出血を見落とす可能性も生じてきます。
そこで今回は,救急医学や脳神経領域を専門としない医師であっても,どのような患者さんの場合にくも膜下出血を疑うべきかを解説します。
■ キーワードは「人生最悪の頭痛」
くも膜下出血で最も多い症状は頭痛です。
その頭痛は,非常に激しい痛みであるといわれています。
そのため,患者さんは,
「これまでの人生で経験したことのない最悪の頭痛が突然襲ってきた」
「雷が落ちたような頭痛が突然始まった」
などと表現することがあります。
いつもとは違う,激しい痛みの場合は,当然,くも膜下出血の可能性を疑うべきです。
■ 病歴聴取では「未破裂脳動脈瘤」の有無を確認する!
過去に医療機関で検査を受け,未破裂脳動脈瘤の存在を指摘されている患者さんが,頭痛で来院した場合,未破裂脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を発症した可能性を強く疑うべきです。患者さんのほうから,未破裂脳動脈瘤を指摘されたことがあると教えてくれることもありますが,患者さんがうっかり忘れていることもあります。医師は未破裂脳動脈瘤の有無に関する聴取を忘れてはいけません。
■ 少しでもくも膜下出血を疑ったら頭部CTを受けてもらう
上述のような症状,病歴を確認したら,初期診断検査として,頭部CTの適応です。自院にCTがなければ,CTを実施可能な医療機関へすみやかに転医する必要があります。くも膜下出血は,いかにして再破裂を防ぐかが患者さんの生命予後において非常に重要です。くも膜下出血を疑ったのにもかかわらず,CT検査を実施せずに鎮痛薬のみの処方で様子を見るだけ,といったことは絶対に避けるべきです。
■ CTで異常がなくても,くも膜下出血は除外できない
出血量が少ない場合や,発症から数日経過している場合は,頭部CTでくも膜下出血の所見を認めないことがあります。「人生最悪の頭痛」や「未破裂脳動脈瘤を持っている」患者さんの場合は,CTよりも少量の出血の検出に優れたMRI検査や,より確実に診断できる腰椎穿刺による髄液検査を実施して,くも膜下出血かどうかをしつこく検索する必要があります。
以上のようなことは,救急医療に従事する医師に求められる標準的な知識といえるでしょう。