脳動静脈奇形(以下AVMといいます)は脳神経外科が扱う疾患のなかでも,外科的治療の難易度が高い疾患です。そのため,カテーテルを用いた塞栓術や定位放射線治療を組み合わせた治療を行うこともあります。しかし,2014年,世界最高峰の医学雑誌であるLancetから驚くべき論文が発表されました。
Medical management with or without interventional therapy for unruptured brain arteriovenous malformations (ARUBA): a multicentre, non-blinded, randomised trial.
Mohr JP, Parides MK, Stapf C, et al
Lancet 2014; 383: 614-621
です。この論文は以下のURLからFreeでダウンロードもできます。
この論文の結論は,未破裂AVMに対して外科的手術,カテーテル塞栓術,定位放射線治療を行うと,保存的に経過観察した場合と比較して,死亡や脳卒中による神経障害のリスクが明らかに高くなる,というものです。
つまり,未破裂AVMに対して積極的に治療をすることは患者の不利益になる,ともいえます。
論文の詳細を見てみましょう。
まず,対象は成人の未破裂AVM患者 226名を治療介入群 116名と保存的治療群 110名に無作為に割り付け,平均33カ月のフォロー中に発生した死亡や脳卒中を2群間で比較しています。治療介入群とは,外科的手術,カテーテル塞栓術,定位放射線治療を単独または組み合わせて実施した群です。
その結果,死亡または脳卒中の発生率が,治療介入群で30.7 %,保存的治療群で10.1 %となり,保存的治療を実施したほうが,死亡または脳卒中の発生リスクを67 %低減できるというものでした。
特に,脳出血の発生率は,治療介入群で21.9 %,保存的治療群で5.5 %となり,保存的治療のほうが,脳出血の発生リスクを77 %も低減できるという結果でした。
それでも,治療介入しないとAVM破裂による出血が心配です。この研究では,保存的治療群のAVM破裂率は年間2.2 %でした。過去の報告でも年間2 %前後という報告が多く,治療介入による出血率のほうが高いといえそうです。
この論文から,未破裂AVMの患者さんに対して,医師は積極的な治療介入を提示するだけではなく,保存的に経過観察することも選択肢として示すべきだといえそうです。