中枢神経疾患の診断において,造影MRI検査は非常に有用です。MRI造影剤のほとんどがガドリニウムを使用しています。ガドリニウム造影剤は1988年から臨床応用が始まり,すでに30年近く経ちました。2016年,腎機能低下患者にガドリニウム造影剤を投与することで,腎性全身性線維症 (nephrogenic systemic fibrosis : NSF) という合併症が引き起こされることが発覚しました。NSFは皮膚の硬化,四肢の関節に運動障害を認め,死に至ることもある合併症で,日本国内においても20数例の報告があります。
NSFの発症を回避するために,現在のガイドラインでは,①透析患者,②eGFR 30未満,③急性腎不全患者はガドリニウム造影剤を投与すべきではないとされています。 ガイドラインが遵守されるようになってから,NSFの新規発症例は報告されていません。その一方で,ガドリニウム造影剤の人体への影響として,2017年11月号の脳神経外科ジャーナルに,ガドリニウム造影剤が脳内に残留,蓄積することを報告した論文が発表されました。とても興味深い内容なのでご紹介します。
MRI造影剤の脳内残留
神田知紀
Jpn J Neurosurg 26 (11): 776-781, 2017
報告の内容は,ガドリニウム造影剤を投与すると,MRIのT1強調画像で小脳歯状核が高信号化することに注目し,病理学的に脳組織からガドリニウム残留を明らかにしたものです。ただ,現時点では,ガドリニウムがどのように脳血液関門を越えて脳内に蓄積するのか,その機序ははっきりとしていません。ガドリニウムは重金属で,生物に対して有毒という一面もありますが,これまでにガドリニウム造影剤の脳内蓄積による神経症状は報告されていません。
現在,臨床で使用されているガドリニウム造影剤には,線状型と環状型があり,環状型ではガドリニウム造影剤の脳内残留が少ないといわれています。また,ガドリニウム造影剤の重大な合併症であるNSFも,環状型では少ないと報告されています。
ガドリニウム造影剤の人体への影響をできるだけ少なくするためには,著者である神田先生がご指摘されているように,あえて線状型ガドリニウム造影剤を使用する利点はないといえます。特に,腎機能が低下している患者さん(eGFRが30以上60未満)では,環状型ガドリニウム造影剤を使用することが望ましいでしょう。
この論文の著者である神田先生は,昨年のJpn J Radiolにもガドリニウム造影剤に関する論文を発表されています。こちらも大変勉強になる内容です。
Brain gadolinium deposition after administration of gadolinium‑based contrast agents
Tomonori Kanda, Hiroshi Oba, Keiko Toyoda, et al
Jpn J Radiol 34: 3-9, 2016