統計上,脳梗塞の20~25%は原因不明の脳梗塞(潜因性脳卒中)に分類されています。その多くは塞栓性脳梗塞と考えられ,塞栓源不明の脳塞栓症として,embolic stroke of undetermined source (ESUS) と呼ばれています。本日は,ESUSに関して,日本脳卒中学会誌に掲載された総説をご紹介します。
Embolic stroke of undetermined source (ESUS)
片野雄大,神澤孝夫,美原 盤,木村和美
脳卒中 39: 470-475, 2017
ESUSの診断基準
Lance Neurologyに掲載された報告によると,ESUSの診断基準は,
1.画像上非ラクナ梗塞であること
2.脳梗塞近位部の動脈において50%以上の狭窄がないこと
3.主要な心内塞栓源がないこと
4.その他の特殊な脳卒中の原因(血管炎,解離,片頭痛,薬物中毒など)がないこと
と定義されています(Lancet Neurol 13: 429-438, 2014)。
ESUSの診断に必要な検査は,
・非ラクナ梗塞を証明するための頭部CT/MRI
・高リスクの心内塞栓源を否定するための経胸壁心エコー,心電図,24時間以上の心臓モニター
・アテローム血栓性脳梗塞や動脈解離などを判断するためのMRA,CTA,頸動脈エコー
とされ,専門施設でなければ実施不可能な検査である経食道心エコーと大動脈弓の精査は要求しないとされています。
つまり,画像所見からは脳塞栓症と考えられるが,通常のスクリーニング検査では塞栓源が同定できないものがESUSとされ,本邦でも脳梗塞全体の20~25%に達すると報告されています。
ESUSの原因
ESUSの塞栓源としては,次のような病態が指摘されています。
・従来から脳梗塞の発症リスクが低いと考えられている低リスクの心内塞栓源(僧帽弁逸脱を伴った粘液腫性弁膜症,僧帽弁輪石灰化,大動脈弁狭窄,石灰化大動脈弁,心房性頻拍,心房中隔瘤など)
・潜在性発作性心房細動
・潜在性非細菌性血栓性心内膜炎
・潜伏癌による腫瘍塞栓
・動脈原性塞栓(大動脈弓プラーク,潰瘍を伴った脳動脈非狭窄性プラーク)
・奇異性塞栓症(卵円孔開存,心房中隔瘤,肺動静脈瘻)
などです。
このなかでも,潜在性発作性心房細動は,ESUSの原因として最も頻度が高く,重要と考えられています。ESUSの多くは,潜在性発作性心房細動の可能性があると推測され,ESUSはあくまで暫定的な診断とする意見もあります。
潜在性発作性心房細動
原因不明の脳梗塞に関して,24時間Holter心電図を行っても,発作性心房細動の検出率はわずか6%といわれています。しかし,1週間心電図モニターを実施すると,発作性心房細動の検出率は22%に高まるとされています。したがって,24時間Holter心電図で発作性心房細動が見られないからといって,直ちにESUSと診断することは危険です。発作性心房細動による心源性脳塞栓症であれば,抗凝固療法を行うことで,再発予防が可能です。その一方で,ESUSとして抗凝固療法を実施しなければ,再発の危険性が高まります。ESUS症例に抗凝固薬ではなく,抗血小板薬が使用されると再発率が高いとの報告もあります。
近年では,イベント検出型体外装着式心電図記録計と通常の24時間Holter心電図の心房細動検出率を比較したEMBARACE試験が実施されました(N Engl J Med 370: 2467-2477, 2014)。その結果,90日以内の心房細動検出率は,体外装着式群で16.1%,通常Holter群で3.2%と有意差をもって,体外装着式群で心房細動検出率が高かったと報告されています。
まとめ
非ラクナ梗塞で,ESUSが疑われる場合,24時間Holter心電図が正常であっても,さらに長時間の心電図モニターを実施することで,潜在性発作性心房細動を検出できる可能性があります。心源性脳塞栓症と診断できれば,適切な抗凝固療法で再発を予防することができるため,われわれ医療者側も慎重に診断することが非常に重要であるといえます。