認知症の「新しい治療薬」を知っていますか?
- 医療鑑定研究会 中嶋浩二
- 2024年3月18日
- 読了時間: 4分
更新日:3月7日

認知症の患者さんは増え続けています
日本では、高齢化が進み、認知症の患者さんは年々、増加し続けています。
だれもが他人事ではない問題ですよね。
自身や家族、友人といった周りの人が認知症になってしまったらと不安に思う人も少なくないでしょう。
一方で、その治療の進歩はあまりくわしく知られていません。
ところで、みなさんは昨年(2023年)9月25日、厚生労働省によって正式に承認された認知症の新しい治療薬「レカネマブ」を知っていますか?
これまでも認知症の治療薬はありました。
みなさんも「アリセプト」とか聞いたことあるかもしれません。
しかし、この新しい治療薬「レカネマブ」はいままでの「アリセプト」といった薬とは違って、認知症の原因となる物質を減らす薬剤として注目されています。
この記事では、認知症の新しい治療薬「レカネマブ」について、できるだけわかりやすく説明しますね。
そもそもアルツハイマー型認知症って?
みなさんは「アルツハイマー型認知症」と、もうひとつ「アルツハイマー病」という言葉をきいたことがあると思います。
ほとんど同じなので、まぎらわしいですよね。
まずは、これら「アルツハイマー型認知症」と「アルツハイマー病」のちがいを理解しましょう。どこがちがうのでしょうか。
答えは「アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病という病気によって認知機能が低下し、日常生活に支障を生じている状態」のことです。
言い換えると「アルツハイマー型認知症=状態」「アルツハイマー病=病気」となります。
つまり、アルツハイマー病という病気によって、アルツハイマー型認知症という状態になるのです。
それでは次に、アルツハイマー病とはどういった疾患なのでしょうか。
少しむずかしい話になりますが、アルツハイマー病の患者さんでは、脳に2つの変化がみられます。
「老人斑」と「神経原線維変化」です。「老人斑」の主成分は「アミロイドβ」(アミロイドベータ)という物質で、このアミロイドβが脳にたまった状態が老人斑なのです。
認知症の新しい治療薬「レカネマブ」は、このアミロイドβが脳にたまるのを減らす働きをもっています。
なので、「レカネマブ」の効果を期待できるのは、アルツハイマー病の患者さんだけです。
アルツハイマー型認知症までの長い経過
じつは、さきほどのアミロイドβという物質は、明らかな「認知症」となるおよそ25年も前から、脳にたまり始めるといわれています。
つまり、アルツハイマー病になってから、25年もたってようやく認知症として症状が出てきて、日常生活に問題が起こるのです。
じつは、アルツハイマー型認知症の状態となる5年ほど前から、日常生活に目立った支障はないけど、もの忘れの目立ってくる時期があります。
そのときの状態を「軽度認知障害」(MCI)といいます。つまり、「正常」→「軽度認知障害(MCI)」→「アルツハイマー型認知症」という経過をたどるのです。
そして、アルツハイマー型認知症を発症すると、およそ15年の経過で死に至ります。
私の経験では、終末期のアルツハイマー型認知症になると、嚥下障害から誤嚥を引き起こし、肺炎で亡くなってしまう患者さんが多いです。
それでは、認知症の新しい治療薬「レカネマブ」はどの段階で使うのが有効なのでしょうか。

新しい治療薬への期待と注意点
アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)は、2023年12月20日に国内で保険適用が承認されました。
9月25日に厚生労働省で承認され、その3か月後に医療機関で使用できるようになったのです。
この薬の対象は、軽度認知障害(MCI)を含む軽度アルツハイマー病の患者さんです。
つまり、進行した認知症の患者さんは対象外となります。
効果はアルツハイマー病を治すことではありません。
アルツハイマー型認知症の進行を遅らせることが期待されています。
「レカネマブ」を1年半、実際の患者さんに使用した結果、記憶力や判断力の悪化を抑えられたそうです。一方、副作用として、脳の浮腫(むくみ)や脳の小さな出血が確認されています。「レカネマブ」の投与中は、専門医による定期的な頭部MRI検査の評価など、慎重な経過観察が必要です。
もう一つの注意点が「費用」です。
「レカネマブ」は、検査で脳内にアミロイドβがたまっていることを確認してから使用を開始します。具体的には2週間に1回の点滴を1年半続けるのです。
薬代は、体重50kgの患者さんでおよそ300万円。
保険適用で3割負担でもおよそ90万円かかります。
このほかにも検査費用などがかかるので、合計では100万円を超えるでしょう。
今後、日本でどれだけ普及するのか注目したいと思います。
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