(2019.4.15)
代表医師の中嶋です。
2019年3月に,『静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正使用指針 第三版』が日本脳卒中学会より発表されました。2005年に初版,2012年に第二版,2016年に第二版の一部改訂を経て,今回,最新の知見に基づき,改訂が行われました。
2015年に,血管内治療(機械的血栓回収療法)と静注血栓溶解療法とのランダム化比較試験として,MR CLEAN,ESCAPE,EXTEND-IA,SWIFT PRIME,REVASCATが立て続けに発表され,いずれにおいても血栓回収療法で3ヵ月後における機能的転帰の改善が示されました。このことから,今回改訂された適正使用指針には,血管内治療について,次のように推奨されています。
(推奨)
①発症前のmRSが0-1
②内頚動脈または中大脳動脈M1部が閉塞
③頭部CTまたはMRI拡散強調画像でASPECTが6点以上
④NIHSSが6以上
⑤18歳以上
の急性期脳梗塞では,静注血栓溶解療法の施行の有無に関わらず,発症6時間以内に遅滞なく機械的血栓回収療法を開始することが強く勧められる【推奨グレードA,エビデンスレベル高】
さて,前回の本ブログでも紹介したように,内頚動脈,中大脳動脈,脳底動脈のいずれかが閉塞した脳梗塞に対する静注血栓溶解療法の再開通率は非常に低い(10%)とされています(NEJM 2018; 378: 1573-1582)。
また,機械的血栓回収療法による再灌流が1時間遅れると,3ヵ月後の転帰良好例が19%減少することが報告されています(JAMA 2016; 316: 1279-1288)。そこで,効果の低い静注血栓溶解療法を省略して,できるだけ早く機械的血栓回収療法を行うべきではないかという意見も出てくるかと思います。この点については,今回の指針で次のように推奨されています。
静注血栓溶解療法の適応症例では,同治療を機械的血栓回収療法開始前に開始することが強く勧められる【推奨グレードA,エビデンスレベル高】
この根拠として,機械的血栓回収療法施行前の静脈血栓溶解療法施行例では,未施行例に比して,3ヵ月後の転帰良好(mRS 0-2)が多く,死亡率が低く,再開通率が高く,症候性頭蓋内出血を増加させなかったと報告されています(Stroke 2017; 48: 2450-2456)。
この結果をふまえ,今回の指針では,次のように警告しています。
「静注血栓溶解療法の適応を有する患者に対して,これを省略して機械的血栓回収療法を行うことは,医療倫理上の問題があり,研究目的での実施以外は厳に慎まねばならない」
脳梗塞治療の進歩は,近年,目覚ましいものがあります。
診療に携わる医師も,常に新しい知見を得る努力が求められるといえます。
Comments