(2020.1.29)
代表医師の中嶋です。
今回は急性硬膜下血腫について,取り上げたいと思います。
急性硬膜下血腫は,二次的な脳浮腫によって,頭蓋内圧亢進,脳循環の障害をきたすことが特徴です。
そのため,他の頭部外傷と比較して,治療は非常に困難とされ,手術例でも死亡率は約40~60%といわれています(頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版,110頁)。
病院内,施設内での転倒事故で,急性硬膜下血腫を発症することもあります。
私がこれまで担当してきた事案のなかでも,医療機関での転倒事故による急性硬膜下血腫に係る紛争は少なくありません。
急性硬膜下血腫は,画像検査で血腫の厚さが1 cm以上,または,意識障害を呈し正中偏位が5 mm以上ある場合には手術適応とされています(頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版,109頁)。
また,受傷当初は意識レベルが良くても,神経症状が急速に進行する場合があります。いわゆる「talk and deteriorate」です。
そのため,当初は手術適応がないと判断され,保存的治療となった場合でも,まったく油断はできません。
特に,高齢者の急性硬膜下血腫では,「talk and deteriorate」を起こしやすいといわれています(頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版,110頁)。
そこで,今回は,急性硬膜下血腫で当初,保存的治療となったものの,その後,血腫増大を認め,手術を要した例について,血腫増大の予測因子を検討した論文を紹介します。
※今年(2020年)に入ってからの最新の論文です。
Kayahara T, Kikkawa Y, Komine H, et al: Predictors of subacute hematoma expansion requiring surgical evacuation after initial conservative treatment in patients with acute subdural hematoma. Acta Neurochirutgica 2020; 162: 357-363.
本論文の要点を以下に列挙します。
・当初,保存的治療が行われた急性硬膜下血腫200例のうち,亜急性期(受傷4~20日目)に血腫の増大を認め,開頭血腫除去術を行った群(Subacute surgery group,以下「亜急性期手術群」といいます。)は17例,そのまま保存的治療が行われた群(Nonsubacute surgery group,以下「保存的治療継続群」といいます。)は183例であった。
・臨床所見では,亜急性期手術群のほうが,保存的治療継続群よりも,入院時に神経学的脱落症状を認める頻度が高く,また,退院時のmRS(脳卒中後の生活自立度)も不良であった。
・入院時のCT所見における亜急性期手術群の主な特徴(保存的治療継続群と比較して統計学的に有意差があるもの)は以下のとおり。
■正中偏位が大きい(亜急性期手術群:平均5.74 mm,保存的治療継続群:平均 1.81 mm)
■血腫の厚さが大きい(亜急性期手術群:平均14.4 mm,保存的治療継続群:平均7.95 mm)
■脳萎縮の程度が強い(※具体的な測定方法は,本論文に記載されています)。
■血腫のdensity(CT値)が単一ではなく混在(高吸収と低吸収が混ざっている)である
➡様々な原因があると考えられている。その一つが,血腫内への脳脊髄液流入である。
・総括としては,急性硬膜下血腫例で,受傷直後の症状が軽症であっても,以下のCT所見を認めた場合は,血腫が増大して緊急手術を要することを想定し,厳重な管理が必要といえます。
★血腫量が大きい(特に正中偏位が5 mm以上,血腫の厚さが14 mm以上の場合)
★脳萎縮を認める
★血腫内部で高吸収と低吸収が混在している
以上です。急性硬膜下血腫例で,「予期せぬ悪化」による死亡例が少なくなればと願っています。
Comments