(2020.4.30)
代表医師の中嶋です。
今回は,神経心理学的検査の所要時間について,お話しします。
神経心理学的検査は,交通事故による高次脳機能障害を評価するために重要です。
弁護士の皆様にとって,WAIS-IIIやWMS-Rは馴染みのある検査名だと思います。
神経心理学的検査の結果は,高次脳機能障害の症状を客観的に裏付けるものとして捉えることができるのです。
それでは,皆さん,WAIS-IIIやWMS-Rについて,検査開始から終了までの所要時間をご存知ですか?
なんと,90分もかかるのです。
その間,思考はフル回転の状態となるため,受傷後,まだ急性期の患者さんには,負担が大きすぎて,検査を実施できないことも少なくありません。
私が勤務するリハビリテーション専門の病院へ転院してから(つまり受傷から1-2か月後),ようやく検査が可能となる患者さんも多いのです。
じつは,医師の間でも,神経心理学的検査の所要時間はあまり知られていません。
そこで,以下に主要な検査の所要時間をまとめました。
(参考文献 太田富雄総編集:脳神経外科学改訂12版,金芳堂,2016年 49頁)
①全般的な知能の評価
・MMSE(ミニメンタルステート検査):15分
・HDS-R(改訂長谷川式知能評価スケール):10分
・WAIS-III(ウェクスラー成人知能検査第3版):90分
②記憶の評価
・WMS-R(ウェクスラー記憶検査):90分
・RBMT(リバーミード行動記憶検査):45分
③注意の評価
・CAT(標準注意検査法):100分
・D-CAT(注意機能スクリーニング検査):10分
・TMT(Trail Making Test):15分
④遂行機能の評価
・BADS(遂行機能障害症候群の行動評価):60分
・FAB(Frontal Assessment Battery):10分
※なお,WAIS-IIIで示される作業記憶や処理速度の指標も遂行機能の評価です。
以上のように,高次脳機能評価の基本ともいえるWAIS-IIIやWMS-Rは,検査を1セッションで終わらせるのに90分もかかります。
患者さんによっては,疲労が結果に影響することもあります。
この疲労による成績の低下について,例えば,検査の後半に行われる項目でも,良好な点数であれば,疲労による成績の低下はなさそう,と判断できます。
また,90分の検査を1セッションで終わらせることができれば,持続力,持久力が大幅に低下していることはないと捉えることもできます。
このように,神経心理学的検査は,さまざまな視点から患者さんの状態を把握するのに役立ちます。
神経心理学的検査は,本当に奥が深いです。
ただ,これだけの時間をかけて得られた大切な結果なので,きちんと分析することで,患者さんが抱えている問題点を把握することが,われわれの役目です。
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